はじめに

 皆さんは『男はつらいよ』という映画をご存知だろうか。シリーズ化された作品として、日本で、いや世界でも一番作品数の多い映画であり、かのギネスブックにも載っているという。全部で四十八作もある。この作品をタイ人学習者用の日本語教材として使えないか、ということから、私たちの<寅プロジェクト>は始まった・・・

|

2008/07/01

<第参回>『男はつらいよ』を選択した理由

 次に理由②について。『男はつらいよ』には様々な職業の人が出てくる。寅次郎はテキ屋であるし、柴又の実家は団子屋を営んでいる。裏にはタコ社長のいる印刷工場があり、近所には御前様や源公のいるお寺もある。マドンナの職業も境遇も様々だ。それぞれの職業で使われる典型的な日本語や言い回しなどが多く見られる。

 また、寅次郎を初め、登場人物はみな義理と人情に篤い。家族の愛情、男女の恋愛感情、友情など様々な人情模様が作品中に展開する。これらの人情が現代日本の常識(社会システム)と絡み合い、不協和音を起こしながらも、それを受け入れながら生きていかねばならない人間の悲哀を描いたのが『男はつらいよ』なのではないか。ここには、例えば義理と人情の葛藤、といった日本文学が繰り返し描いてきた世界がある。学習者がどこまで理解できるかわからないが、そのテーゼを実見し、感じることは少なくともできるだろう。こうした体験としても有効ではないか。

 その他にも、ウチとソトの概念なども家族の会話、位置関係などから知ることができるだろう。

 それがさりげなくではあるが、描写されているのが『男はつらいよ』なのである。したがって、『男はつらいよ』を観、理解することは日本語の理解だけではなく、日本文学、日本文化理解にも繋がるものと思われる。

<文責:岩井 茂樹>

| | コメント (0)

<第四回>『男はつらいよ』を選択した理由

 最後に理由③について。よく指摘されることであるが、『男はつらいよ』には日本の原風景が描写されているという。

 ここでいう「原風景」という言葉には、二つの意味が含まれているように思う。

 一つは、景観そのものについてである。寅次郎は、旅をするため全国各地に旅をする。そこで必ずマドンナと出会うのであるが、そこに映しだされる風景には美しいものが多い。現代の日本ではほとんど見られなくなってしまった風景や風習などが描かれている場面が、非常に多いのである。

もう一つは、心象風景である。今では希薄になってしまった「家」や「世間」といった心の共同体が、この映画には描かれている。「とらや」を中心とした「家」、柴又という「世間」といった共同体の風景がここにはある。流浪する寅さんと、「家」や「世間」内に定住する者たちとが時に対立し、また時には融和するといった物語。両者の相克、これも『男はつらいよ』に見られる一つの大きなテーマである。

日本の原風景を知る(たとえそれが現在は失われたものであっても)ということは畢竟、その国の文化を理解することに繋がるだろう。

 こうした理由から、私たちは『男はつらいよ』を教材として選択したのである。

 次回は、『男はつらいよ』の中から、特に第二十六作を選択した理由について述べようと思う。

<文責:岩井 茂樹>

| | コメント (36)

プロジェクトの概要と特色

 皆さんは『男はつらいよ』という映画をご存知だろうか。シリーズ化された作品として、日本で、いや世界でも一番作品数の多い映画であり、かのギネスブックにも載っているという。全部で四十八作もある。この作品をタイ人学習者用の日本語教材として使えないか、ということから、私たちの<寅プロジェクト>は始まった。

 今回私たちが試みたのは、『男はつらいよ』を使って複数の授業が連係(連携)しながら、学習者の日本語能力を伸ばしていこうというものである。具体的には、タイ人日本語学習者(大学三年生)を対象とした会話、文法、聴解、作文の四つの授業を連係(連携)させたことになる。

 開始当初に期待されたのは、それぞれの授業では扱えない範囲の知識教授を他の授業が補足しながら進めば、学習者の日本語能力向上に効果的ではないかということであった。一例を挙げると、作文の授業では行えなかった文法の説明を、文法の授業で詳しく行ってもらうことができる。このように四つの授業が連係(連携)することによって、それぞれの授業の問題点や、学習者の弱点などがより明確になり、教授する側にとっても、また教授される側にとっても大きなメリットがあると考えたのである。

 会話は池谷清美先生、文法は(片桐)カノックワン・ラオハブラナキット先生、聴解は中山英治先生、作文は岩井茂樹が担当した。構成は、日本語教育が専門の先生が三名に、日本文学・日本文化を専門とする教師が一名。別の言い方をすると、日本人三名にタイ人一名という構成である。ここでも互いの時間やスキルの不足を補うことが期待された。

 こうした期待と希望を抱きながら、<寅プロジェクト>はスタートした。

<文責:岩井 茂樹>

| | コメント (0)

<第壱回>作文授業における効果

前回は、本プロジェクトの概要と、その特色について述べた。今回から三回にわたって、私が担当した作文の授業に限って、実施内容とその効果について簡単に記しておこうと思う。今回は授業での実施内容について述べる。

まず授業では、『男はつらいよ・寅次郎かもめ歌』(第二十六作)を用い、要約文と感想文を作成させた。それに対し、主として添削指導によって間違いを指摘するとともに、必要な知識やノウハウを適宜与えた。

 要約文は、映画を一度観た後に四百字詰めの原稿用紙三枚にまとめ、さらにそれを半分の原稿用紙一枚半に要約させた。

 感想文は、まず映画を観た率直な感想を七つほど挙げさせ、その一つについてそう感じた理由と、映画を観て何をどう考えるようになったか、を原稿用紙二枚に書かせて提出させた。

 要約、感想文ともに、二度、添削を含めたフィードバックを行った。

 さて、どのような結果が得られたのか。それを次回以降で報告する。

<文責:岩井 茂樹>

| | コメント (0)

<第弐回>作文授業における効果

 今回と次回で、『男はつらいよ・寅次郎かもめ歌』(第二十六作)の要約と感想文を書かせた結果について報告しようと思う。

 要約に関しては、重要な部分とそうでない部分の区別ができるか、それに重要な部分を適切な日本語で表現できるか、の二点を大きなチェックポイントとした。

 一点目については、最初はその区別がほとんどできず、映画にあらわれる場面すべてを平均的に紹介する生徒が多かった。だが、重要な部分をより詳しく、そうでない部分は必要最小限にするという指導を行った結果、問題点はかなり解消できた。

 二点目については、助詞や主語・述語、それに接続詞が不適切であるといった問題が多く見られた。これらの問題点の内、主語と述語の関係については、両者の対応をより意識させ、両者を近づけるように指導した結果、間違いは非常に少なくなった。接続詞もまだ完全に使いこなせるとはいえないものの、適切に使える確率は上がった。これは次に述べる感想文での指導も含めた中で達成できたものである。

<文責:岩井 茂樹>

| | コメント (0)

<第参回>作文授業における効果

 感想文は<映画を観た感想>→<感想を持った理由>→<考察・自分の意見>といった三部構成で感想文を書かせた。ここでは、単なる感想だけを述べたものではなく、そこから自分の意見を導き、述べることができるか、を重視した。物事の本質や、自分自身を知るためにも、自分が感じたことから自らの意見を述べることは、様々な局面で必要とされる能力であるが、これは生徒にとって非常に難しいようだった。単なる感想は書けるものの、そこから何か普遍的なものや、対象を通して自分の意見を述べるといった行為はもう少し練習が必要なようだ。これは訓練する機会を増やしたり、別の教材を使ったりすることで、解消できる問題ではないかと思う。

 具体的に、何がどういけないのか、どんな間違いが多かったのかなど、個々の事例は折を見て紹介していこうと思っている。その際には、詳細な分析と考察も付け加える予定だ。

 ここでただ一点だけ強調しておきたいのは、こうした学習者の能力向上は、私の担当した作文の授業だけでは決して達成できなかったものであるということだ。つまり、この<寅プロジェクト>という連係(連携)授業があったからこそ、達成できたものなのである。その連係(連携)方法については、また日を改めて報告することにしよう。この<寅プロジェクト>を実施した結果、どのようなことが起こったのか。その結果報告を今後も楽しみにしてほしい。

<文責:岩井 茂樹>

| | コメント (0)

<第壱回>『男をつらいよ』を選んだ理由

 さて、今回からしばらくの間、『男はつらいよ』を教材として選択し、さらに要約と感想文の練習に第二十六作を選んだ理由について述べていこうと思う。これは、本来ならばもっと早い段階で述べるべきものであったのかもしれないが、遅まきながらここに記しておこうと思う。

 ただし、ここに挙げた理由は、あくまでも作文授業を担当した岩井個人の意見であることをお断りしておきたい。他の先生方がどういった理由で教材として選択したかは、それぞれの先生方の意見を参照されたい。

 まず日本語教材となりうるものの中から、特に『男はつらいよ』を選んだ理由は、

① 映画、特に本シリーズが言語的、非言語的表現の学習に適している

② 日本語だけでなく、日本文化や日本文学の理解にもつながる

③ 日本の四季の移り変わりや風景を知ることができる

の三点であった。

 もう少し、それぞれについて説明する必要があるだろう。次回以降、それぞれについて説明をしていく。

<文責:岩井 茂樹>

| | コメント (0)

<第弐回>『男をつらいよ』を選んだ理由

 まずは、選択理由①についてであるが、映画という映像自体が、言語と非言語表現の習得に効果がある。なぜなら、会話と、ジェスチャーが同時進行するからである。日本人には日本人特有のジェスチャーがある。それを会話の内容、シチュエーションとともに実見できるのである。

 『男はつらいよ』という作品は、登場人物の性格や職業が明瞭なので、そうした登場人物のキャラクターや登場人物同士の関係性が、外国人学習者にとって理解しやすいと考えられる。

また、『男はつらいよ』はストーリー展開に型があるので、話の展開が理解しやすい。つまり、主人公である車寅次郎の<柴又から旅立ち>→<マドンナとの出会い>→<柴又へ帰郷・生活>→<マドンナとの失恋>→<柴又からの新たな旅立ち>という構成が全作品を貫徹している。このわかりやすいパターンがあるので、外国人学習者も話の展開を追うよりも、作品内で展開される会話の内容やしぐさに注意を払うことができるのである。

 こうした理由が『男はつらいよ』を選択した第一の理由である。

<文責:岩井 茂樹>

| | コメント (0)

Dr.SHIGEKI IWAI

ดร.ฌิเงะกิ อิวะอ
Dr.Shigeki Iwai
岩井 茂樹

詳しくはこちらより

| | コメント (0)

«Asst.Prof.Dr.Kanokwan Laohaburanakit KATAGIRI